アイデアより問題が大事な5つの理由

事業開発に携わったことがある人なら、一度は「製品・サービスはアイデアではなく問題から考えろ」という言葉を聞いたことがあると思います。あるいは、失敗を通じてその重要性を痛感した人もいるかもしれません。

あのスティーブ・ジョブスも、1997年のアップルの開発者向けカンファレンスで、次のように述べています。「(何かを作ろうとする時は、) 顧客体験から始めて、そこから必要な技術を考えなければならない。技術から始めて、それをどこで売ろうかと考えてはいけない。私はおそらく誰よりもこの間違いを犯してきた。その証拠となる傷跡がたくさんある」と。

なぜ、問題を理解することが、アイデアよりも重要なのでしょうか?ネットでこの概念を説明している文献を探したところ、しっくりくるものがなかったので、私なりに整理してみました。

理由は、一言で言うと、「問題を言語化することで、チームを正しい方向に導き、さらにはチームの協力を得ることができる」からです。抽象的すぎたか。。。

まず、問題を言語化することでチームを正しい方向に導ける理由は3つあります。

1. 取り組む問題が間違っていたら、どんなにうまく解決しても意味がない

これは一見当たり前ですが、よくある間違いです。例えば、日本のテレビメーカーは、画質にこだわるあまり、価格や形状(薄型)といったより一般的な顧客のニーズに応えられずに、海外はもちろん、国内でもシェアを年々落としてきました。その根底には、「顧客が最も気にするのは画質である」という間違った問題設定があったと言えます。画質を上げるために多くの技術者が費やした時間を想像すると、いかに初めの問題設定が大事かが分かります。

2. アイデアの詳細を詰めるほど、元々の問題が何かが問われる

これは、何か企画をやり遂げたことのある人なら、痛感したことがあると思います。企画の合意が得られ、いざ実行しようとすると、一緒に取り組む関係者から山ほどの質問や疑問が湧いてきます。また、予算や期限などの制約も出てくるため、何は妥協して良いのか、何は妥協できないのかを決めなくてはなりません。適切に判断するためには、「そもそも、この企画の目的は?」という問いに何度も立ち返ることになります。その際に問題が言語化できていないと、企画が頓挫したり、実りのない企画を無理矢理前に進めることになってしまいます。

3. アイデアの大半は期待した成果に繋がらない

アマゾン、マイクロソフト、エアビーアンドビーで数々の実験プログラムを立ち上げてきたロン・コハヴィ氏は、どの企業でも必ず半分以上、高ければ7~8割の実験が期待した成果に繋がらないのが普通だと言います。このため、心構えとしては「8割の実験は失敗する」と想定する重要性を説いています。

8割の実験が失敗すると、その後何をするのでしょうか?実験結果からの学びを言語化し、元々の問題を解決するために、試行錯誤を繰り返すしかありません。ということは、我々は個々のアイデアに割く時間より、その根底にある問題と付き合う時間の方がはるかに長いのです。取り組むべき問題が言語化されていないと、度重なる失敗を前に行き先が分からなくなり、諦めてしまうことになります。

まとめると、問題をしっかり言語化するほど、後々の時間の無駄を減らせます。時間より大事な資源はありませんから、問題の言語化ができるチームほど成功確率が上がります。

同時に、同じぐらい大事でありながら、あまり語られないのは、アイデアより問題に集中する方が、周りの協力を得やすいということです。その理由は2つあります。

1. 人は、問題に共感すると応援したくなる

1つ目は、人は、問題に共感すると応援したくなる、という心理です。これは、カーナビアプリWazeを約1,630億円でグーグルに売却したユニコーン連続起業家のユリ・レヴィーンが最も分かりやすく述べています

「私が2007年にWazeを起業した時に、あなたに、『AIを駆使したクラウドソースナビゲーションシステムを構築するんだ』と言ったとしましょう。あなたは『へぇ、面白いね』と言うが、別に興味を持たないでしょう。

でも、私が、『あなたの交通渋滞の回避を助けたい』と言ったら、あなたは興味を持つはずです。こう言えば、あなたは私に成功して欲しいと願うでしょう。そして、人々が起業家の成功を願う時、起業家が助けが必要な時に彼らは手を差し伸べてくれるのです。」

企業の活動においても同じことが言えます。「これほんとうに苦痛だよね」、「なんとかしたいよね」、という共通認識があるほど、人は協力してくれるのです。「周りがこの問題を解決したいと思ってくれている」と思えるほど、自分のやる気も上がりますから、その相乗効果は自分にも戻ってきます。

2. 人は、アイデアに貢献できるとやる気が上がる

2つ目は、人は、重要な意思決定に自分の考えが反映されていると感じると、やる気が上がる、という心理です。企業向けに世論調査やコンサルティングサービスを提供するギャラップは、「意思決定において従業員の考えを聞くことは、彼らの賛同と当事者意識を得る上で有効であることが証明されている」と述べています

この心理を逆手に取ると、実は、最初からアイデアを決め打ちにしない方が、より周囲の協力が得やすくなります。もちろん、問題を起案した人がいくつかのアイデアを考え、その中でベストだと思う提案があることは大事です。ただし、「このアイデアを通さねば」と前のめりにならずに、周りの意見を聞き、より良いアイデアがあれば柔軟に取り入れる姿勢を持つことで、最終的な成果の実現に繋がりやすくなります。

それでは、問題を上手に言語化するには何が必要なのでしょうか?私の経験上、「良い問題」には3つの要件があります。

1) (誰の問題なのかが具体的である) 1つ目は、まずその問題の対象となる人物像の具体化です。具体的とは、「顧客リサーチをしたいから参加者を集めて」と言われたら、誰に打診すればよいのかが想像がつくレベルです。例えば、「アマゾンの顧客」と言っても、漠然すぎて誰に打診すれば良いのか分かりません。この場合は、特定のニーズがある対象者(例:子持ち世帯、ゲーム好きな人、など)を言語化しなくてはなりません。

2) (問題を裏付けるデータがある) 2つ目は、問題を裏付けるデータがあることです。誰かに「これが問題だ」と言われた時に気になるのは、それはただの意見なのか、データに基づいた洞察なのかです。この際、口コミなどの定性データが複数あると、顧客の感情が切実に感じられるようになります。さらに、定量データも加わると、問題の規模感が分かり、その問題の信憑性が増します。社内データ、業界データ・トレンド、ユーザーリサーチ結果など、いくつもの出所から情報を集めて言語化すると効果的です。

なお、今まで全く世に存在しないサービスの場合は、手軽な実験を通じてデータを取得する必要があります。例えば、民宿プラットフォームのエアビーアンドビーは、お金を払って見知らぬ人の家に泊まる人がいるのか検証するために、簡単なウェブサイトを作り、近くのイベント参加者に告知することで、需要があることを確認しました。

このような実験に興味がある方は、「40分でアイデア検証プランを作る『プレトタイピング』」のニュースレターもぜひご覧ください。

3) (解決策に言及していない) 3つ目は、当たり前と言えばそうなのですが、解決策に言及していないということです。課題をすっ飛ばして解決策に入ると、他にあり得る解決策を見逃してしまいます。例えば「顧客からメールが来たら通知がほしい」というのは、もうすでに解決策を決めてしまっています。これを「サポートエンジニアが顧客のメールを確認するのに1日50回もページを更新しないといけない」と言えば、いろんな解決策が思いつきます。そのため、解決策に言及する前に、何が問題なのかを言語化することが大事です。

以上です。私がつらつらと書いたことを他人の言葉を借りてまとめると、こういうことでした:

  • 「ビジョンに固執し、詳細は柔軟に」ジェフ・ベゾス、Amazon 創業者兼会長

  • 「粘り強い人はゴールに固執する。頑固な人はアイデアに固執する」ポール・グレアム、Yコンビネーター共同創業者

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