アマゾン流事業提案書の書き方(その2)「プレスリリース・よくある質問」

前回は、事業提案書を書く際の土台となる、「5つの顧客の質問」について書きました(逃した方はこちら)。

要は、何よりも先に、①顧客は誰で、②彼らの課題は何で、③それに対する解決策は何で、④どんな顧客体験にするのか、⑤成功をどう定義・測定するのか、を書くことで、その提案が顧客に意味があるのか、検討に値するのかがクリアになる、ということです。

今回は、それを洗練された提案書に仕上げる、「プレスリリース・よくある質問」(PRFAQ)という方法をお伝えしたいと思います。

新しいアイデアを共有したい時、どんな形で共有するのが良いか迷う人も多いでしょう。四六時中アイデアを考える人は別として、ほとんどの人は日中他の仕事をやりくりしながら提案書を書いています。提案書の構成を考えるのは手間な一方、1~2回しか与えられないプレゼンの場で、構成が下手で企画が通らなかったら、全ての努力が水の泡です。

こういう時に、「ビジネスモデルキャンバス」のような分かりやすく構造化されたフレームワークがよく使われます。

しかし、このようなフレームワークでそれっぽい提案が通せても、成功からは程遠く、むしろ遠のくリスクが高いです。理由は、

  1. 顧客のニーズに踏み込んでいない、

  2. 「リソース」「コスト」等の社内の制約を前提としている、

  3. 顧客が理解・共感できる提案になっていない

からです。

特に3は致命的で、これが大事かつ難しいステップなのに、後回しにすると、後々開発・マーケティング・法務など様々な部署と深堀りするうちに、「そもそも何をしたかったのだろう?」とカオスになり、計画が頓挫したり、誰も使わないサービスを無理矢理ローンチしたりといった羽目になります。

チームの貴重な時間を無駄にしないためには、まずは顧客に伝えるコピーを書き、その青写真をメンバー間で擦り合わせることが、何よりも大事なのです。これを達成する最もシンプルな方法が「プレスリリース (PR) とよくある質問 (FAQ)」、通称「PRFAQ」というものです。これは、前回書いた「5つの顧客の質問」への答えを、顧客に伝わる言葉にするために編集し直す方法とも言えます。以下、①プレスリリース(PR)・②よくある質問(FAQ)・③添付資料それぞれの構成例を見てみましょう。

①プレスリリース(PR)の構成例

プレスリリース(PR)は、顧客視点に立って、未来に飛び込むツールと言えます。顧客が我々のプロダクト(サービス・製品)を体験したときに、どのように感じ、何を言うかを想像し、それを一つのストーリーにすることで、プロダクトをローンチした時の顧客のメリットやその意義を社内で擦り合わせることができます。ここでは、自分達の「目的地」に集中し、その「道筋」は「よくある質問」で別途議論します。

  • タイトル:ローンチするプロダクトの簡潔なタイトル。どう書いて良いか分からなければ、とりあえず「[〇〇会社]が[とある顧客セグメント]に[こんなメリット]を提供する[〇〇サービス・ツール]を発表」と穴埋めも可。

  • サブタイトル:最も重要な顧客へのメリットを一文で捉える。俗に言う「エレベーターピッチ」・アイデアの要点。

  • 発表日・出版元:発表日は、野心的でありつつ実現可能性のある日付を書く。これを書くと、どれくらいの難易度の提案をしているのかイメージが沸く(例:簡単なアップデートなら2-3カ月後、大型ローンチなら9-12カ月後)。出版元は、一般的なPR発信媒体(例:共同通信)でも良いが、ファッションならWWD、ビジネスなら日経新聞といった具合により具体化することも可。

  • サマリー:顧客が誰で、何をローンチし、顧客への最大のメリットは何かを紹介。

  • 顧客の課題:顧客のどんな課題・機会を対象としているのかを提示する。最大3-4程度。彼らの苦痛を自分も切実に感じられるよう描写することが肝。この段階では解決策に触れるのはNG。自社のビジネス課題に触れるのもNG。顧客の問題に焦点を当て、複数ある場合は苦痛レベル高→低の順に語る。

  • 解決策:自社の製品・サービスが顧客の課題をどう解決するのか、簡潔に説明する。機能の概要を紹介し、上記した課題がそれぞれどう解決されるのか話す。

  • 会社役員からのメッセージ:担当リーダーの言葉で、会社がなぜこの問題に取り組むことにしたのか、それを解決する意義は何なのかを言語化する。最終形はリーダー自身のメッセージが望ましいが、ドラフト段階ではとりあえずリーダーが言いそうなことを叩き台として書くのでOK。

  • プロダクトの使い方:ここで、具体的な使い方を解説。自分の家族に話すつもりで、始めから終わりまでのステップを説明する。顧客体験を視覚化しやすいように、そして読者がそれを試したい!と思うように動機づけるのが狙い。

  • 顧客の口コミ:口コミは架空のもので良いが、顧客リサーチに基づいたものであるべき。顧客がプロダクトを使った時にどう感じ、なぜ彼らがプロダクトを使いたくなるのか、表現する。ドラフトができたら声に出して読み、本当に人間が言っているところを想像できるか自問する。必要に応じて、複数の口コミを入れることも可。

  • 行動喚起:顧客がプロダクトを使い始めるために行くべきところ(例:URL)を提供する。

具体例があるとよりイメージが沸くと思うので、架空のPRを紹介します。


株式会社サーキュレートが、欲しい商品の入荷・値引き情報を教えてくれる通知アプリをローンチ

欲しい商品の在庫がない・価格が高すぎる時、アプリ『サーキュレート』がお客様に代わって入荷・値引き情報をチェックしてくれる。

2024年9月1日 共同通信

株式会社サーキュレートは本日、iOS・Androidのユーザー向けに購買支援アプリをリリースしました。ユーザーが欲しい商品が入荷・値引きされた時に速やかに通知をしてくれます。

ネットで気に入った商品の在庫がない・値段が高すぎる、という問題に直面した人は多いでしょう。好きなブランドの服を買いたければ、そのウェブサイトを日々チェックし続けたり、各ブランドからの大量のマーケティングメールに購読し、メールボックスがパンクしないよう逐次確認しなければなりません。やっと狙っていた商品が安くなったと思いきや、割引になっているのはXXLとXXSサイズだけだったりします。

サーキュレートは、ユーザーが欲しいものが入庫・値引きされた時に速やかに通知をすることで、これらの問題を解決します。アプリはユーザーが最も気になる商品を学び、ユーザーが望む通知のみを、ユーザーが選ぶ方法や頻度で配信してくれます。お気に入りのブランド、アーティスト、作者からの衣類・音楽・書籍といった商品を把握し、それらの入庫・値引き情報を配信することができます。これにより、自ら日々情報収集する負担からユーザーを解放してくれます。

「サーキュレートの目標は、お客様がより早く・楽しく手に入れたいものをお知らせすることで、お買い物の負担を減らすことです」と、サーキュレートのCEOイアン・マクアリスターは言います。「ネットには何十万もの小売業者があり、我々が想像できるものは何でも売られています。サーキュレートは、不要な情報を取り除き、お客様が必要とするものをお手頃な価格で入手できるよう大事な情報を速やかにお届けすることで、時間とお金を節約します。」

サーキュレートを試すには、Circulert.comにアクセスし、iOSまたはAndroid用のアプリをダウンロードすることで使い始められます。アプリを楽天、Amazon、ロハコ、その他オンラインアカウントと連携し、推奨通知を設定します。これだけで、ユーザーが欲しい商品が欲しい価格で手に入る時に、その通知を送ることができます。商品をお気に入り登録したり、それらを友人や家族と共有したり、通知が来た商品を早速買うこともできます。

「私、セールを逃すのが本当に嫌いなんですよね」と、埼玉の看護師、山本いちかさんは言います。「逃さないように、以前は毎日のようにお気に入りブランドのサイトやメールをいちいちチェックしないといけなかったんです。でも、サーキュレートを使い始めてからは、欲しいものが良い値段で出た時にすぐに知ることができて、セールを逃さなくなりました。」

時間、お金、またはその両方を節約したい方は、こちらから(Circulert.com)。

出所:イアン・マクアリスター(元アマゾン ディレクター、現ウーバー シニア・ディレクター)


②よくある質問(FAQ)の構成例

「よくある質問(FAQ)」は、読者がPRを読んで思いつくであろう質問に答えることで、PRで提案したアイデアを進化させ、それを現実に近づけるための議論を促してくれます。FAQには、「顧客向けFAQ」「社内向けFAQ」の2種類があり、読者の関心事に合わせて各質問を自由自在に選ぶことができます。

  • 顧客向けFAQ:プロダクトの使い方や値段など、顧客が真っ先に聞くであろう質問を捉えることで、自分が提案しているアイデアをよりクリアにします。例えば、上記のPRなら、次のような質問が考えられます。

    • 「私が何が欲しいのか、アプリはどうやって分かるのですか?」

    • 「連携できるサイトは何がありますか?セキュリティはどう担保しているのですか?」

    • 「連携サイトのポイントは変わらず付与されるのですか?」

    • 「このサービスは有料ですか?」

    • 「アプリをインストールしたくないです。他の方法で使うことはできますか?」

  • 社内向けFAQ:意思決定をする役員や関係部署メンバーが聞くであろう想定質問をここで書き、答えを用意します。ここでは特に、提案の戦略的意義やリスク、実現に向けた課題など、激しい議論になりそうなポイントを包み隠さずに表に出すことで、効率的な議論を促すことができます。また、まだ調査しきれていないポイントは、そのFAQの答えとして「まだ分からないので、XYZを行うことで答えを調査する」とネクストステップを予め提示することができます。私が今までPRFAQを書いてきて役に立ったFAQには、以下のようなものがあります。

    • 「今日この場で必要な意思決定やフィードバックは何ですか?」

    • 「このプロダクトが対象とする顧客はどんな人ですか?」

    • 「顧客のどんな課題を解決しようとしていて、なぜ今それをすべきなのですか?」

    • 「他にどんなアイデアを検討し、それらはなぜ提案しなかったのですか?」

    • 「このローンチにはどんなリスクを想定していますか?」

    • 「この提案のどの部分で最も賛否が分かれていますか?」

    • 「初期版で最もお客様がガッカリするのはどの部分ですか?」

    • 「ローンチしたら、どんな指標で成功を評価しますか?」

    • 「この領域には今どんな企業がいて、我々はどう違うメリットを提供できるのですか?」

    • 「財務的にはどんなインパクトを見込んでいますか?鍵となる前提は?」

③添付資料の構成例

ここでは、提案をサポートする市場調査、顧客の口コミ・データ、財務分析や、顧客体験をイメージできるワイヤーフレームを添付します。特に、「百聞は一見に如かず」ということわざの通り、ビジュアルを入れると、書き手がどんなプロダクトを想像しているのかパッと理解することができ、議論が効率よく進みます。デザイナーがいればモックアップを用意してもらえるとベストですが、いなければ自分で用意したワイヤーフレームや、ホワイトボードの写真でもOKです。

PRFAQが書けたら、それをチームメンバーと共有してフィードバックをもらい、意思決定者との会議まで徐々に輪を広げて仕上げていきましょう。特に、PRFAQを通じて、①顧客が誰かクリアか、②顧客の課題はクリアで、データに基づいているか、③顧客への最大のメリットはクリアか、④顧客でも分かる言葉を用いているか、⑤実際の製品の体験をイメージできるか、といった「5つの顧客の質問」への答えを評価し、結晶化させていくことが大事です。

PRFAQを実際に社内でどう運用するか、パワポ文化の会社でこれを使うにはどうしたら良いのか、といった質問もあると思うので、それらを集めながらPRFAQに関する「よくある質問」のニュースレターを今後発信したいと思います。

※個人的な見解であり、所属する会社、組織とは全く関係ありません。

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