アマゾン流事業提案書の書き方(その1)「5つの顧客の質問」

今日は、アマゾンで20年近く使われている、事業提案書の書き方について説明したいと思います。

入社前、私が「一体あの会社はどうやって次から次へ事業を生み出しているんだ?」と抱いていた疑問の答えの多くは、この事業提案書の書き方・使い方に秘められています。

事業の提案は、事業幹部や経営企画なら避けて通れない仕事の一つでしょう。また、社内のプロセスで、「なぜこんな無駄なことやっているんだ」「こう変えたらいいのに」と思うことは誰でもあるという意味では、企業幹部に限らず、誰の目の前にもある機会です。(今回説明する提案書の書き方は、社内プロセスにも応用できます。)

しかし、新規事業の多くは、実際導入してみると、顧客の役に立たずに頓挫することが多いです。顧客には「要らない」「使えない」と言われ、社内では「なぜこれ導入したんだっけ?」「手段が目的になってない?」と指摘される。そんな経験はないでしょうか。

なぜこんなことが起きるのか。一言でいうと、提案書の多くは「頭でっかち」で、顧客の立場に立って考え抜かれていないからです。

  1. 市場規模や成長率などに囚われ、顧客の何の課題を解決するのか、具体的に書かれていない(数行の薄っぺらい文章しかない)

  2. コストや必要売上など、顧客に関係ない社内の制約から始まっている

  3. 何をどう作るか先に考えて、一番難しく、かつ大事な、顧客への伝え方を後回しにしている。

こう書くと当然おかしいのですが、未だに多くの会社でこういう提案がまかり通っています。

自分のプロダクトを愛してくれる顧客がいなければ、何の売上にもならないのですから、顧客の課題とメリットを確立する前にいくら皮算用しても意味がありません。これは、名門VCユニオン・スクエア・ベンチャーズのフレッド・ウィルソンも、彼の記事「ビジネスモデルより、戦略より、プロダクトが大事な理由」で述べています。「戦略やビジネスモデルは軌道修正できるが、ニーズのないプロダクトは救いようがない。」CBインサイツの「スタートアップが失敗する20の理由」のダントツ1位が「ニーズがなかった」であるのも納得できます。

良い事業提案書を書くには、まず顧客体験に集中することが肝心です。そのために、アマゾンでは、新しい事業を考える時は必ず「5つの顧客の質問」を考えます。

  1. (傾聴) 顧客は誰で、彼らに関するどんな洞察があるか?

  2. (定義) 顧客の主要な問題/機会は何?どんなデータを見てこう思うのか?

  3. (発案) 解決策は何?なぜこの方法が正しい解決策なのか?

  4. (洗練) どんな顧客体験を提供するのか?一番大事な顧客のメリットは何?

  5. (検証)どう成功を定義・測定するのか?

事業提案書を書くための「5つの顧客の質問」

①(傾聴)は、顧客の口コミやフィードバック、顧客インタビュー、覆面調査や、それらに基づく社内データを基に書いていきます。ジェフ・ベゾスの「株主へのレター(2016年版)」にあるように、単なる市場アンケートに留まらず、顧客の声を深いレベルで理解することが重要です。

②(定義)は、以下の形式で考えることをオススメします。「現在、『お客様』 は『この状況』に置かれた時、『ある問題又は機会』に直面している。お客様は『こんなニーズ』を必要としている。」これを裏付けるための「データ」は、定量・定性両方使えます。

③(発案)は、グループでアイデア出しをし、そこから優先順位付けをしていくと、良いアイデアに辿り着きやすいです。アイデアには、「良いことをより良くする」、「負の体験をなくす」、「逆の視点で考える(例:行列にいる時間を楽しくするには?)」、「類推する(例:飛行機にいる時間をスパにいるような体験にするには?」といったパターンがあります。

④(洗練)は、30秒で説明できる顧客へのキャッチコピーを言語化した上で、顧客になったつもりでその体験を説明していきます。ここでは、文章に加え、徐々にその原型となるプロトタイプやワイヤーフレームなどを入れていくと良いでしょう。

⑤(検証)は、後回しにしがちですが、肝心なステップです。効果をどう測定し、何を成功と呼ぶのか、予め擦り合わせないと、後になって「これは成功した」「していない」という議論になります。

これらのQ&Aをそれぞれ1段落程の内容にまとめ、議論するメンバーの輪を徐々に広げて、原稿を修正していきます。次回のニュースレターでは、これをさらに明確なビジョンと討議資料にする、「プレスリリース・FAQ」という資料の書き方を説明したいと思います。

面白いのは、経験上、どこまで討議資料を練っても、大体の議論はこの5つの質問、特にその①と②に終始することです。逆に言えば、それぐらい難しく、大事で、しかし忘れがちなことなのだと思います。

私は入社して間もない頃、アマゾン出品者の広告をグループ会社のツイッチに出す提案をしました。その際、シニアVPからの最初の質問で「ツイッチで広告を出したい人は、結局どんな人なのかしら?」と聞かれ、あぁ、しまった、と思った記憶があります。提案の全ての土台となるこの質問の答えが、クリアになっていなかったのです。それ以来、何を提案する時も先ずこの「5つの顧客の質問」から始めるようにしています。

※個人的な見解であり、所属する会社、組織とは全く関係ありません。

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