プロジェクトの失敗を防ぐ魔法の会議

いくつもプロジェクトを経験してみると、うまく行かないケースはあるものだ。キャパ不足や、チーム間の連携、想定外のトラブル、スコープの見直しなど、色んなパターンがあり得る。そんな時、問題がなぜ起きたか、今後はどうそれを防ぐべきか、メンバー間で振り返りに時間を割き、文章化しておくことが重要だ。読者の皆様もおそらく定期的にこれを行い、学びを蓄積されておられると想像する。

しかし、失敗は誰もしたくないし、その間の機会損失を考慮すると、高い代価だ。失敗を予見して、未然に防ぐ方法はないものだろうか?

Google、Twitter、Stripeの黎明期に活躍した著名PM、Shreyas Doshiは、「振り返りをプロジェクト実行前にやる」という斬新なアプローチを提唱している。英語で、これを「プレモーテム」と言う(ラテン語で、「死ぬ前」という意味。なぜこんな大げさなのかは知らない)。彼はこの手法をHarvard Business Reviewの記事で知り、Stripeで実践し続け、改良を重ねてきた。今ではAsanaAtlassian等、多くの企業が提唱するほど広まったが、彼がおススメする手法が最も効果的かつ面白いと思うので、彼の無料テンプレートを私が和訳したものと併せて紹介したい。

プレモーテムの進め方

① キックオフ(10分)

「👋プレモーテムへのご参加、ありがとうございます!今日はこのドキュメント(リンクを挿入)で行うので、皆さんそちらを開いてください。無事開けたら、👍で教えてください」

「このプロジェクトが〇カ月後、大失敗に終わったと想像してみてください。その過程を思い返して、なぜそうなってしまったのか、理由を考えてみてください。このエクササイズをやることで、それらの脅威を未然に防げるようにしたいと思います。」

「これらの脅威を、以下3つのいずれかに分類してください。」

  1. 🐅 トラ:何か対策を施さないと、「死ぬ」ほど明確な脅威(トラに食べられてしまう、というイメージ)

  2. 🐯 張り子のトラ:自分は心配していないが、他のメンバーが「トラ」だと考えているかもしれない脅威

  3. 🐘 ゾウ:皆が見て見ぬふりをしている脅威。由来は、英語の「部屋にいるゾウ」というフレーズ

「準備ができたら、ステップ②に進んでください。」

② 各自静かにブレスト(10分)

「下記表に、各自思いついた脅威を記入してください。各自、最低2つの『トラ』を書いてください。『張り子のトラ』と『ゾウ』は、好きなだけ書いて結構です。他の人のアイデアに囚われないよう、『皆のアイデアを見る』ボタンはオフにしておいてください。終わったら✅をクリックしてください。」

アイデアリスト例

③ 各自静かに投票(10分)→グループディスカッション(20分)

「『皆のアイデアを見る』ボタンをオンにしてください。それらを黙読し、あなたが大事だと思う脅威に投票してください。議論の焦点を絞るため、各自最大5回までとしましょう。完了したら、✅をクリックしてください。

投票が終わったら、1人ずつ、最も共感した脅威についてコメントしてください。他のメンバーの話を聞いている間、各自メモを取りましょう。」

④ アクションプランを決める(10分)

「主催者が、最も大きい脅威をいくつかのテーマにグループ化し、それらの対策を決め、担当者を任命しましょう。ドラフトができたら、アクションプランをチームと共有し、最終化しましょう。」

アクションプラン例

プレモーテムの利点

プレモーテムがなぜ有効なのか。一番の理由は、皆が薄々気づいている問題に早期に取り組むことで、プロジェクトの成功確率が大幅に上がることだ。その過程で、以下のような効果ももたらしてくれる。

  1. 心理的安全性を促してくれる。皆、心配事があっても、公の場で言いづらいものだ。ネガティブな雰囲気にしたくないし、誰かの批判として受け止められたくない。あえて、「未来の失敗を想像する」場を提供することで、参加者が安心して懸念事項を挙げる機会ができる。

  2. 不安が払拭され、前向きなエネルギーが生まれる。不思議なことに、プレモーテムを終えると、皆笑顔になり、前向きな雰囲気になる。モヤモヤを言語化し、皆でそれらの対策を考えることで、「大丈夫だ。きっとこのプロジェクトはうまく行く」という自信が生まれる。

  3. 後ほど使える共通言語が生まれる。効果はプレモーテム後も続く。プロジェクト中に新たな心配事が出た時、メンバーは「トラがあるんですけど」と手を挙げられるようになる。メンバー間で問題意識を共有しやすくなることで、それらをタイムリーに解決できるようになる。

尚、Shreyas流プレモーテムのミソは、「トラ」「張り子のトラ」「ゾウ」という3つの脅威の定義とネーミングだ。まず、この3つの脅威に議題を絞ることで、最も大事な問題に焦点を当て、些細な問題に気を囚われないよう集中できる。また、覚えやすいネーミングにすることで、上述の通り共通言語が生まれ、会議後も効果を持続させられる。(日本語でさらに良いネーミングがあれば、是非教えて頂きたい。)

テンプレートの利用方法

興味を持たれた方は、上記テンプレートの「テンプレートをコピー」ボタンをクリック頂きたい。これで用途に合わせたカスタマイズが可能となる。参加者や社外向けのアクセス権限付与は、英語で恐縮だが、このページのGIFをご覧頂くとイメージが湧くと思う。ご感想があればぜひお聞かせ頂きたい。

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