今さら聞けない、AIの基本(その2)

5月4日号のニュースレターでは、AIの歴史・考え方・手法について共有させて頂いた(逃した方はこちらから)。AIの由来を簡単におさらいした後、① 電気回路、②コンピューターの論理、③ニューラルネットワーク、④LLMの4つのトピックについて解説した。AIに関するニュースは尽きない中、それをより深く理解するためのAIの基本をおさらいをした次第だ。

今日は、これらの前提知識を基に、①AIモデルの種類、②期待されるAIの活用分野、③汎用人工知能 (AGI)・人工超知能 (ASI)の見立てについて書きたい。

①AIモデルの種類

ご紹介した様々なコンピューターの論理方法を整理すると、以下4つの方法に分類することができる。身近なプロダクトの例も交えながら、解説していきたい。

1. 教師あり学習モデル

教師あり学習は、過去の入力データと出力データを機械学習アルゴリズムに与えることで機能する。アルゴリズムは各ステップにおいて、入力と出力の各ペアを処理した後で、望ましい結果にできるだけ近い出力を生成するようにモデルを変更する。以前ご紹介した線形回帰決定木のような伝統的なモデルや、ランダムフォレストのような複雑なモデルは、全て教師あり学習モデルの例だ。

例えば、Yahoo!メールのデータは、「迷惑メール」とそうでないメールの過去実績がある。このラベルと実績をモデルに渡せば、迷惑メールか否かのパターンを識別し、時間の経過と共に、与えられたメールが迷惑メールなのかをより正確に予測できるようになる。

2. 教師なし学習モデル

教師なし学習は、ラベル付けされていない入力データからパターンや構造を見つけ、予測モデルを作成するのに使われる。以前ご紹介したクラスタリング技術(K-近傍法)や分類技術(サポートベクターマシン)は、教師なし学習手法の代表的な例だ。実用的な例としては、人を様々な興味や関心に基づいてセグメントに分類し、それに基づいた広告を打つ、といったことを大手広告プラットフォーム (Google, Meta) は行っている。

また、教師なし学習は、データの次元を分類、圧縮、削減するためのパターンや特徴認識にも使える。これを「次元削減」と呼び、例えばNetflixは、低い回線速度でも質の良い動画を見られるように、この手法を通じて動画の圧縮をしている。

これとは別に、「自己教師あり学習」という手法もある。これは、ラベルがないデータの一部を隠すことで、穴埋め問題を作り、その隠されたデータをラベルとする手法だ。例えば、画像とテキストのペアデータを用いて「画像とテキストのペア当てクイズ」をして学習すると、テキストを画像に変換できるモデルの基を作ることができる。

3. 強化学習モデル

強化学習とは、プログラムの行動に対する報酬や罰を通じて学習する方法のこと。犬に「お座り」を教えたい場合、実際にお座りができたらおやつをあげると、練習するうちに「お座り」を学べるのと同じ原理。ラベルなしデータは扱いやすいメリットがある反面、高い計算能力を必要とするため、資金力を持つ会社に限られることが多い。実用例としては、Netflixのレコメンデーションや、自動運転車の訓練、投資のポートフォリオ最適化などがある。

4. 生成AIモデル

生成AIは、実は上記3種類の組み合わせなのだが、ここ数年の注目を踏まえ、別途紹介したい。生成AIとは、全く新しいアウトプットを生み出す人工知能(AI)のことで、新しい画像や動画、音声、文章やコードを生成するAI、もしくはこれらを組み合わせて生成するAIのことを指す。2022年末に登場したChatGPTは、このうちテキストと自然言語処理に特化した大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)を使用している。LLMについては、お時間あれば、4月20日に投稿した「5分で分かる、LLM入門」も是非ご参照頂きたい。

ご紹介した各モデルとその活用例のマップ

②期待されるAIの活用分野

これらのAIは、今後全ての業界でインパクトを与えることは間違いない。名門VC「a16z」のマーク・アンドリーセンが「ソフトウェアが世界を食べる」現象を唱えてから10年以上経ち、今は「AIが世界を食べる」時代になりつつある。リンクトインの創業者リード・ホフマンは、「AIは我々の人生、あるいは人類史上最も重要なテクノロジーの進化になる」と見ている。今日は、中でも大きく影響を受けると予想される4つの業界をハイライトしたい。

1. ソフトウェア

AIはソフトウェア企業の収益向上とコスト削減の大きな原動力となるだろう。また、個人の起業・副業のハードルを大幅に下げる触媒となると捉えられる。

企業の収益向上

今、ほぼ全てのソフトウェア企業が、自分達のプロダクトの再構築に奔走している。アルファベットのサンダル・ピチャイは、こう言う:

「私はAIのシフトを、インターネットの台頭や、モバイルへの転換と似た状況だと捉えています。これは構造的なプラットフォームの転換であり、非常に重大な変化です。これにより、殆どの製品を再考することになるでしょう。」

全てのソフトウェアにおいて、より根本的にAIを組み込む動きが進んでいくと予想される。

企業のコスト削減

ソフトウェア企業は組織も再考しており、より具体的には、人員のスリム化を進めている。これは、GPUへの投資に資源を捻出する必要があることと、AIによる生産性向上により、今まで程人手が要らなくなったことの両方の力が働いていると見られる。

  • (例) コーネル大学の研究では、GitHub Copilotを使用するプログラマーは、そうでないプログラマーと比べて56%早いと分析

  • (例) インターコムは、LLMにより顧客サポートの費用を約40%削減

個人の副業・起業

尚、AIが今最も威力を発揮しているのは上記例にあるようなコーディングアシスタントであり、これはビジネスパーソンにとっても革命的な変化だと捉えている。Cursorのようなツールを使えば、作りたいものを文章で表現するだけでコードを生成・改良でき、デバッグの能力も今後どんどん進化していく。好きなプロダクトを個人で作れる時代がもう来ているということだ。Replitのブログを見ると、実際それを実現している人の体験談を見ることができる。

2. 医療・製薬・ヘルスケア

医療・製薬・ヘルスケアは経済で最も大きな支出領域の一つであり、AIによって大きな変動が起きている。主な分野として、医師の支援と創薬の支援を紹介したい。

医師の支援

2022年にAIが爆発的に注目される前から、医師が診断を行うための事前分類ツールとしてCNN(畳み込みニューラルネットワーク)のようなAIモデルが使われていた。これにより、MRIやCTスキャンをした患者の診断の精度を向上させることができた。

これに加えて、現在では、医師がLLMを活用してより効率よくメモを取ったり、患者との話し方を改善したり、医学文献の探索をより早く行う、といった取り組みが行われ始めている。

創薬の支援

もう1つ注目されているAIの活用領域が、創薬だ。従来の手法では提案できないようなタンパク質や化合物の手掛かりを得られる可能性がある。これを実現すべく、遺伝子発現等の情報の活用や、化学反応の深層学習が進められている。また、患者のゲノム情報を解析して、1人ひとりにワクチンを最適化させる個別化治療の研究も進んでいる。

3. ロボティクス・製造業

AIモデルは、ロボティクスの分野でも大きく活躍すると考えられている。我々は既にロボット掃除機やAmazon倉庫のピッキングロボットの恩恵を受けているが、これらの多くはCNNのようなAIモデルを基に動いている。

CNNとLLMの組み合わせにより、今後ロボットはより複雑な作業ができるようになる。TeslaやFigure AIのような企業は、これらのタスクを実行できる人間型ロボットの構築に取り組んでいる。日本をはじめ、世界中でも製造業における人手不足があることを考えると、これは労働力のギャップを埋める大きな鍵になるだろう。

4. 教育

4日前に発表されたOpenAIのGPT-4oのデモでも見られたように、ついにAIが個々人の家庭教師になってくれる日が来た。教育領域では長らく、マンツーマン指導を行えば学生はトップ2%の成績が出せるが、その指導料を払える親が限られる、という不平等に悩まされてきた(これを「ブルームの2シグマ問題」という)。AIの台頭により、誰でも自分のペースと興味・関心に沿った家庭教師に助けてもらうことができるようになった。Khan AcademyはKhanmigoという家庭教師ツールをリリースしており、今後他社も追随してくだろう。

OpenAIのデモ。数学の問題をGPT-4oと共に解いている

これと共に、教育の形も今後進化してく必要がある。ChatGPTの利用度は季節性があり、学生が夏休みに入るタイミングで減少するという現象が見られる。明らかに、宿題をこなすためのChatGPTの活用が進んでいるのだ。教育者もそれに合わせて授業で教える内容やテストの仕方を変えていく必要があるだろう。

③汎用人工知能 (AGI)・人工超知能 (ASI)の見立て

Google DeepMindは、今後のAIの進化を考えるために以下のようなフレームワークを提案している:

  • 熟練度:レベル1-5の5段階

  • 汎用性:「特化型」と「汎用型」の2種類

ご覧の通り、特化型では、既に超人レベルのAIが存在する。

  • StockFishはチェスのチャンピオンMagnus Carlsenを打ち負かすことができる

  • AlphaFoldはどの人間よりも上手にタンパク質の構造を予測できる

  • AlphaZeroはチェス・囲碁・将棋をどの人間よりも上手く打てる

一方、汎用型では、まだその領域に達しているAIはいない。汎用型AIは汎用人工知能 (AGI)と呼ばれ、それが超人レベルに達したものを、(まだ存在しないが)人工超知能 (ASI)と呼ぶ。これはいつ達成されるのか、人により見解が異なるが、年々その予想が縮まっているのは間違いない。

最も楽観的なのは、イーロン・マスクで、彼は「あと3年以内で、AIがJKローリングのように良い小説を書いたり、新しい物理学の法則を発見したり、新しい技術を発明したりできる」と予測する。サム・アルトマンは2031年までにASIを達成できると見ている。ニューラルネットワークと深層学習の父と言われるジェフリー・ヒントンも、「最近までは、汎用型AIを実現するまでに20~50年かかると見ていたが、今はもう、20年以内に迫っていると感じる」と述べている

AGI・ASIの未来が迫る中、不穏な動きも出てきている。OpenAIのような企業にはAIの「スーパーアラインメント」チームがあり、モデルが悪用されないよう、監視・制御することを目的としてきた。だが、AIの競争が激化する中、OpenAI内でこの取り組みの優先度が下がり、チームリーダー達(イリヤ・サツキバー主任科学者、ヤン・ライカ)の退任が相次いでいる。

退任されたイリヤ・サツキバーは、半年前、彼の思い描く未来についてこう語っている。「過去数年の劇的な進歩を踏まえ、5~10年後を想像すると、我々は今とは全く異なる世界にいるでしょう。人間よりもはるかに賢いコンピューターやデータセンターが存在し、記憶力や知識に留まらず、我々より深い洞察力を持つという、ある意味生きている存在となる。我々はそのデータセンターが、人類に対し温かい感情を持ってほしいと思います。今日から具体的な準備を始めれば、未来の超知能体が、人々に対して親切でありたいという強い願望を持たせる科学を築くことができます。混沌とした世の中で、彼らが自律的・社会的な存在になれることを願っています。」10年後の世界がどうなっているかは、彼のような科学者達の取り組みにかかっていると言っても過言ではない。OpenAIを離れた今、彼らがここに益々力を入れていくことを期待したい。

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