Google元CEOが唱える個の時代の到来

8月13日、あるYouTubeの動画が話題になり、1日後に消えた。Google元CEOエリック・シュミットによるスタンフォード大学でのゲスト講演の動画だ。Googleのリモートワークに対する彼の批判を巡って同社から抗議を受けたため削除されたようだが、真相は分からない。

「なぜ誰もNVIDIAにキャッチアップできないのか」「AI覇権を握る国の要件は」といった問いに対し、洞察に富むトークだったので、残念だ。

Xに再掲された英語版はこちら

誰もが天才AIプログラマーを持つ日は遠くない

その中で興味深かったのは、生成AIの3つの技術の進化が、あと1~2年で誰も計り知れないほどのインパクトを社会に与えるだろう、という見立てだ。

  1. 巨大なコンテキストウィンドウ:乱暴に言うと、ChatGPTに一度に突っ込める文字数のこと(より正確な定義はこちら)。コンテキストウィンドウが大きいほど、モデルはより長い文章や大量の情報を一度に処理できる。モデル開発には着手からリリースまでのタイムラグがつきものだが、これにより、モデルが最新の文脈を深く理解し、整合性の取れた出力を生成できるようになる。

  2. AIエージェント:これはNewsPicksの記事でも取り上げられたが、自分の代理(エージェント)となって自律的に判断し、行動を起こすAIのこと。例えば、化学の世界では、「ChemCrow」というAIエージェントが、タンパク質の性質に関する仮説を作り、夜中に実験を行い、その学びを基に翌日も試行錯誤を繰り返している。

  3. テキスト-to-アクション:これは、自然言語→プログラミング言語への変換のこと。今でもClaudeなどに日本語で指示すれば、それをプログラミング言語に変換してプロトタイプ作りを試みてくれるが、今後この精度が益々進化していくと見られている。

シュミットは、この3つの技術の進化で、あと1~2年で誰もが瞬時にプロダクトを作れる時が来ると言う。世界中の誰もが、望むことを実行してくれるAIプログラマーを持つようになるからだ。

例えば、「TikTokのユーザーと音楽を使って、私の好みのスタイルにして、面白い生成AI機能を加えたプロダクトを30秒で作って。1時間以内にバズらなかったら他のことを試してみて」といった指示が可能になる。

これができた日には、SNSのそれを遥かに超える恐ろしい社会的インパクトを及ぼすだろう、と警鐘を鳴らしている。

誰もがプロダクトを作れる時代に大事なスキルとは

AIが最も得意とするのは、コードを書く、デザインを作る、データを分析する、といったハードスキルだ。一方、顧客の悩みを理解する、ビジョンを描く、人を巻き込むといったソフトスキルは、深いレベルで真似るのは難しい。また、AIで生産性が上がるからこそ、手作り感や物語性のある体験への需要が高まるだろう、とアドビCSOのスコット・ベルスキーは言う。人間力や判断力の重要性はこれまでと変わらないか、それ以上になるだろう。

だが、それだけでは足りない気がする。もう一つ大事なのは、とにかく手を動かして最新の技術に触れてみることだろう。シュミットの話の予兆として、既にCursor(AI搭載のコードエディタ)を使って個々人が思い思いのアプリを作っている。(追記:Cursorはつい昨日、$60MのシリーズAを発表。投資家はa16z、OpenAI、他)8歳児がハリーポッターのチャットボットを作れるなら、大人も言い訳はできない(笑)。

8歳児がハリポタのチャットボットを作成。リンクはこちら

MITの研究者、レックス・フリードマンのポッドキャストに3日前に登場したゲスト開発者のピーター・レベルズの例が面白い。ノマド生活をしながら自分の生き方について悩んだ彼は、「12カ月で12個のスタートアップを立ち上げる」という目標を自分に課してから、人生が変わった。「メールボックスに届いたYouTube音楽を再生するアプリ」、「自分の目標と期限を入力してクレカと連携→できなかったらお金を払わされるアプリ(その名もGo Fucking Do It)」など、様々なアプリを自分で作り、資金調達なしで年間3億円も稼ぐ個人開発者になった。これまでの経験を経て、彼は3つの学びがあると言う。

  1. 自分の課題を解決してくれるプロダクトを作る

  2. いきなりガッツリ開発するのではなく、少しずつ作ってシェアする

  3. SNS等を通じてフィードバックをもらうことで、ヒントを得る

加えて、言及されていない大事な転換点は、彼が独学でプログラミングを学んだことだろう。他分野と同様、AIがどこまで進んでも、そのアウトプットを評価し、それに対して指示を出せるスキルが大事であることは、シュミットも異論していない。「英語を学ぶことがこれからも大事なことと同じだ」と彼は言う。

私もいくつかアプリのアイデアを温めているのだが、まさにGo Fucking Do Itしなくては。気を取り直して頑張ろう。

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